4月9日の課題の締め切りを終えて、あっという間に2学期目が終わりました。3学期制なので、2/3が終わったことになります。人生で一番勉強しましたし、福島復興に関するイベントのお手伝いなどもさせていただき達成感がありました。すでに遥か昔のことのようですが、1学期目の終わりからのことを記録に残したいと思います。学期終わりの休み中の出来事から始まる感じがハリーポッターぽいと思って読んでください。1学期目のレポートはこちらです。また、いきなり脱線しますが、先日Kevin’s English roomがオックスフォードに来てくれて、動画がアップされました。大学の厳かな?雰囲気が伝わるかと思いますので、ぜひこちらもどうぞ!
冬休み
1学期目が終わりつつも、大学関連のことや職場関連のことでバタバタしながら、過ごしていましたが、大学の教員の一人(国会議員も兼ねている)が、「年末年始にフランスに旅行に行っている間、うちのデカい家と犬の面倒を見てくれる人を探しています」とメールを流していて、英国の寒くて暗い冬に怯え、どこにも行く予定のなかった我が家なら「イケる!」ということで、事前に何度か訪問した上で、年末年始の7泊8日、寝室6つ、トイレ4つ、風呂3つの家に暮らしました。歴史的な家屋の保存地域になっているものすごく素敵で、静かなエリアでした。
滞在中は、朝と夜の犬の散歩の合間に、可能な限りの遠出に挑戦し、ストーンヘンジ、バース(Bath, 風呂の語源)、ブリストル(バンクシーの地元)などに行きました。異国で現地の人の家に1週間も暮らすのは、その場所での暮らし方や必需品の正解を体得できる感じで良かったですし、お子さんが4人もいるお家だったので、いろんな写真や思い出の品が語りかけてくるようで、不思議な気持ちでした。近所の方のお家にお邪魔したり、出会いもあって素晴らしい滞在でした。子どもたちが少しずつ犬に慣れて、最後は難なく共存していく様子は、見ていて非常に気持ちが良かったです。育児に加えて、犬の散歩ができたということがまた夫婦としての自信につながりました笑
この村暮らしが終わると、Master of Public policy (MPP)の同級生たちと、ケンブリッジ大学の近くの大きな戸建てを借りて、リトリートをしました。スイス人の同級生が、ものすごく穏やかなリトリートを企画してくれて、ノルウェー、中国、日本からの面々と我が家全員で3泊4日を共にでき、毎晩異文化な手料理を食べて、妻が「母親であることを忘れて楽しめた」と言っていたのが印象的でした。息子は水疱瘡後、娘が2日目に発熱、だったんですが、今思えばなぜかすごく穏やかに過ごせていました。
保育園の友達の誕生日会
長女の保育園の友達が誕生日会を開いてくれて、こちらのバースデーパーティはどんなものか嬉々として調査に伺いました。元気いっぱいなダイナソー(大好き)男子だったのですが、コミュニティセンターの小さい部屋ながら、なんと業者が設置した巨大な空気で膨らむ滑り台やボールプールで部屋が埋め尽くされていました。ファンの音でかなりの音量でしたが、そこに子どもの叫び声も加わり興奮。サンドイッチやお菓子、ケーキがいっぱい用意されていて、コンテンツは中盤のハッピーバースデーとケーキのろうそくのみで非常に単純。日本だったら、準備とか片付けとかを相手が気にするところも含めて適度な着地点を探るところですが、こちらは全力でもてなして、主催者が全ての準備と片付けを一手に担う。ゲストはプレゼントと、自分の時のパーティに全力を注いでお返しする、のが基本なのかなと思いました。
2学期(Hilary Term)
いつも学期の前後の隙間のタイミングを使って応用的な単発の授業が選択必須であるのですが、2学期の初めには、Doing business with businessという、産業政策・官民連携の授業が4日間ありました。ゲストがいっぱい来て、英国財務省の官民連携部門の元責任者、元・Innovate UK(研究の商業化を支援する英国の公的機関)理事かつ元・英国政府経済サービス(Government Economic Service)長官だった人、30歳でマッキンコンサルからセルビアの財務大臣になったLazar Krstićや、英国ビジネス省事務次官、と、だいぶお腹いっぱいになりましたが、1学期に経済学で学んだ内容を基礎に、規制のあり方や官民連携のメリットデメリットを、非常に高位の立場にいた方々が、細かい実務的な事情まで含めて紹介してくれるのは興味深かったです。
コアモジュール
Politics of Policymaking
政治学の授業でした。Government schoolとして欠かせない要素だったわけですが、全8週の授業で毎回何をトピックとするのか、非常に厳選された内容に感じましたし、1学期目の学びも前提となっているし、間違いなく3学期目につながっているし、この1年の核となる科目に感じています。何より、第2次トランプ政権の発足とほぼ同じタイミングで学期が始まり、「最も成功した」とご本人が言っている100日の前半、毎日毎日大きな動きがある状況を、誰よりもそれを理解している教員陣がリアルタイムで授業の内容に織り込みながら、学ぶ機会をくれたように思います。安全保障の理論については、ロシアとウクライナを中心に扱い、貿易問題については米中日の半導体を中心に扱い、毎日のニュースと毎日学ぶ内容が同時に脳に突き刺さってくる日々でした。政党を扱った週では、個人の政治的な嗜好が、集団化して社会的亀裂となり、さらに一定の条件を満たして政治的な亀裂となり、政党政治を生み出し、支え、それがまた個人にも影響していく、というような構造を頭に入れることができたことも大きな学びでした。2024年は、選挙のあったすべての先進国において、与党が票率を低下させる事態で、これは1900年代まで遡っても初めてのことだった、というのも印象的でした。
毎週の授業は講義と少人数のセミナーで構成されていて、私のグループの担当はJanina Dillという教授で、安全保障界隈でご活躍のようで、トランプ大統領が何か動くたびに取材依頼やSNSでのアクションがあるので、休み時間にスマホを忙しくみながらも授業していたのが印象的でした。
Law and public policy
Principle law と International law の2グループに分かれて授業が進行していて、私は前者を選びました。多様な法体系、権力分立、法の支配、国際法について勉強しました。特に法の支配のクラスが個人的には面白く、World Justice Projectの法の支配指標がどのように統一的な指標で各国を評価しているのか、それは妥当な手法なのか、客観的なのか、有識者はどのような構成かなどを確認し合いながら解像度を高めていくのはユニークな経験でした。各国異なる事情がある中でEUが財政的なインセンティブやペナルティを用いながら法の支配の改善を試みているのも興味深かったです。
個人的には、本省勤務時代に、自分が担当している省令が、自分が担当している法律に違反しているとして起こされた訴訟を被告として担当していたことがあり、政策を形成しつつ、それがどう正統であるのかを規定する法律を所管し、またそれを(もちろん国会の審議をクリアしないといけないものの)自らの手で改正に向けて動き出すことができる行政部の立場を強く思い起こさせられ、法の支配の輪郭を意識させられる時間でした。
Evidence and public policy
統計と政策評価の授業がありました。先学期に統計のクイズがあって点数が低い人は統計の基礎のクラスを受けてくださいと言われて受けていました。そしてそれを前提に今学期はエビデンスの授業がありました。RCTやDIDなどの介入、分析の手法を基礎から学び、すごくいろんなプロジェクトの事例を見ながら、評価点や改善点を考える時間でした。ほぼ全ての定量的な政策研究に、必要な知見だったと思うので非常に勉強しがいがありました。同時に世界では多様な政策介入の実験が行われ、事前と事後、介入されたグループとされていないグループの比較、がされていることもよくわかりました。ルワンダで税金について0円申告が相次ぐ現象(払いたくない?払えない?払い方がわからない?)や、ネパールの周産期のケアについて何が有効かなど。数年間公務員をやっていますが、自分の分野でこういった介入実験の話にほとんど触れる機会がなかったことへの違和感も感じました。
Managing international organizations
上記のコアモジュール(政治学・法学・エビデンス)が終わり試験期間中の隙間に、選択で短期の授業を1つ受けました。Managing international organizationsという学長のナイリーウッズの授業で、学生の注目も高いものでした。学長の専門は国際経済で、IMFや世銀の組織運営に主眼が置かれた授業でした。内容は非常に堅実で、世界恐慌から第二次世界大戦、ブレトンウッズ体制に向かう世界情勢は、それぞれ何がきっかけだったのかから始まり、ガーナやギリシャの経済危機について当事者の話を聞き、最後の三日目には時々米国であがる世界銀行からの撤退の意見に関連して、仮に米国が撤退する場合、どのように各国の議論を構築するか、日本、中国、ドイツ、フランス、英国、インド、ガーナ、パキスタン、インドネシア、ウクライナに分かれて、ロールプレイングしました。何よりも、基本的に出資額2位の日本のスタンスが問われるテーマで、国内ではあまり話題になりませんが、多くの国の命運を左右しかねない機構の第一線に日本が立っていることを強く認識するとともに、人を送っている財務省内での考え方や国内政治とのバランスなど、非常に興味が湧いたトピックでした。
福島イベント
2月に2つのイベントを企画・お手伝いすることができました。昨年のMPPの日本人の先輩で、現在同じ大学院のMScコースで研究されている先輩が、福島県出身、渡英前まで福島復興業務に継続的に関わり、現在福島復興関連の研究をオックスフォードでされていて、その方から、「(福島第一原発がある)双葉町の町長が渡英する予定で、オックスフォードに寄ってくれるかもしれず、ならばイベントができたらいいと思っている」とおっしゃっていて、私は渡英前から日本の災害対応・原発問題・人口減少をキーワードに何を世界とシェアできるかを考えていたので、まさに!と思い「絶対手伝いたいです!」と伝えました。
町長のオックスフォード来訪と大学院での講演が決まり、話し合う過程で「福島復興の論点は多岐に渡り複雑なので、事前に学生たちで勉強会をしよう」ということになり、事前の勉強会と町長講演本番の2本立てのイベントとなりました。
勉強会では、そもそも日本のエネルギーや原子力政策の文脈を説明し(冨永はここで原発財源と自治体財政の関係を簡単に紹介しました)、原子炉の解体作業と、避難解除に向けた取り組み、両者にかかるリスクコミュニケーション、そして日本のエネルギー政策の今後、と、てんこ盛りの内容でした。日本でもなかなか聞けない具体的な内容でしたし、経産省、外務省、総務省職員がそれぞれの立場から関係するポイントを話すことができたのも面白い機会でした。元々MPPの学生は学生相互の学び合いに高いエンゲージメントを見出す傾向にありますが、この日も多くの学生が集まり、議論の場面でもウクライナの学生から「今後ウクライナが復興に向けて動き出していくことを思うと、非常に勇気づけられる」と言ってくれたり、チリの学生から「これだけのことがあってもなお、日本で原子力エネルギーの活用が推進されているのはなぜ?」という率直な質問があったりして、なかなか国内での議論で使わない筋肉を使いながら議論できて面白かったと思います。
そして数日後に、町長が来られました。町長はまず3月11日から12日にかけて何があったのか、役場の閉鎖をした1時間半後に建屋が爆発したこと、住民への説明と国との調整を何度も何度も何度もして、避難解除を進めていること、苦渋の決断で中間貯蔵施設の受け入れに至ったこと、そして双葉が未来に向かって進んでいることを説明していただきました。人口は7,140(2011.3)から5,294(2025.1)ですが、物理的に域内に暮らしている人は、0から約180名になっています。この数字に至るまでの想像を絶する努力について、熱のこもったお話をしていただきました。そのリーダーシップについて質問されると「自分はリーダーだと思っていない」という回答だったのも印象的でしたし、現在の日本政府のエネルギー政策について聞かれた際には、逆に「皆さんはどうやって気候変動リスクに取り組めると思うのか聞きたい」と聞き返していたのがハイライトでした。終了後は急いで子どもを保育園に迎えに行って家に届け、駅にダッシュして町長一行とロンドンに戻り同席させていただきましたが、町長が「学生の聞く姿勢が非常に真剣で驚いた」とおっしゃっていました。
また、教室を貸し出し、広報に協力してくれたり、実際に参加してくれたり、同時通訳を派遣して参加者全員分のヘッドフォンを準備するまでしてくれるこの大学院の手厚さには素直に感動しました。
大学院のブログ”Voices”への投稿
こちらに来て、やはりQuiet superpowerな日本の政治動向への関心は高くないのですが、関心が高くないのはまだしも、そもそも全然知らない(大統領制?議院内閣制?)人も多いので、一緒に学んでいる友人と日本政治関連で一本ブログを寄稿しようとなりました。日本の政局面から、経済や人口、文化的な側面まで触れられるのではということで話題の103万の壁の引き上げについて、頑張って書きました。これを通じて非常に勉強になりましたし、「すごく勉強になった」との声ももらえたのでやって良かったです。そしてこの記事をほぼ書き終えたところで、政治哲学の最後の試験課題で日本の人口減少が大きく取り上げられて、期せずして試験勉強にもなりました。試験の問いの一つ、「日本の人口減少は倫理的に問題か?」というのがあり、非常に考えさせる問いだったなと思います。
カルチュラルナイト
先学期の選挙を経て取り組んでいるStudent representative(学生代表)としての活動にも拍車がかかりました。例によって、地域ごとにカルチュラルナイトと題して、食事や歌やダンスなどの一夜を企画するのですが、年度内の日程が限られていく中で、どの地域が先陣を切るかが問われ、早くどこかが始めないと3学期目が毎日カルチュラルナイトになっちゃうことを焦ったリーダーのヘレンが「日本人8人もいるんだから、アジアをまとめて頑張って!」と言い、ヘレンからの美しいプレッシャーのもと、2週間で一発目のカルチュラルナイトをバタバタと準備しました。ここは日本人としてのマネジメントを遺憾なく発揮するタイミングだと思い、予算の折衝から大学スタッフとの調整、各国のニーズの刈り取りに全力で取り組みました。東アジア・東南アジアの11ヵ国・地域とのイベントは最高に良いものになりました。日本は全体を仕切りつつ、巻き寿司、ソーラン節、ビンゴと大活躍でした。
そのほか、ピクニックが行われたり、
学期末のパーティも先学期同様に行われました。(Repの写真)
多様なオックスフォードでの機会
大学関係では多様なレクチャーやセミナーイベントがあり、かなり限られたものにしか参加していませんが、1つ1つかなりインパクトがありました。大学院のキャリア担当の人が企画してくれたBurn outについての時間は、同じ大学院の卒業生で、燃え尽き経験者で、今はメンタル関連の仕事をされている方が、命懸けでお話をしてくれました。Amazing peopleな同級生たちも少なからず燃え尽きた経験があることがわかり、さらに団結を強くしてくれたように思います。そのほか、大学院の一員になった前首相のリシ・スナク氏が聞き手になって、Open AIに次ぐ?規模のAnthropicのDario Amodei氏との対談をしてくれました。主眼は割と、非民主主義国家のAI開発は安全保障上のリスクがあることから、どうそれを防ぐかみたいなところに置かれていて、AIが一気に進化している世界でもなかなか世界は平和にならないんだなと思いました。
最も印象的だったのは、アフリカ学を研究している学生がコンゴ民主共和国の在英大使のンゴクウェイ氏をオックスフォードに連れてきて講演会をしてくれたことです。東部の武装勢力のM23が東部最大の都市であるゴマを制圧したと宣言し、情勢が悪化していることを受けて、今どんな非人道的な事態が起きているかを率直にお話しされました。終了後に、キンシャサにいたこと、人生で最も美しい瞬間の1つだったとお話ししたところ、さっきまで非常に重たいお話をされていた大使ですが「音楽に触れる機会はあったか?」と聞かれ「結婚式に参加して朝まで踊りました」と言うと非常に嬉しそうで、まさにコンゴを思い起こさせる瞬間でした。オックスフォードでコンゴ民主共和国に関するセミナーが開かれたのは20年ぶりという話もあり、アフリカの中でもいろんな関係・事情があります。
Masculinity
もう一つ、印象的だったイベントは同じコースに通う学生の男性陣だけで、「Masculinity(男らしさ)」に関する勉強会が行われたことです。まずは男性だけで話そうと言うことで、アフリカ、アメリカ、移民、ゲイ、と異なるバックグラウンドにありながらも、語られるマスキュリニティには非常に共通点があるんだなと思いました。ジェンダーの文脈で女性に焦点が当たることはよくありますが、男らしさについて友人たちと議論したのはこれが初めてでした。改めてこれを企画してくれるMPPのメンバーが非常に誇らしいと思った次第でした。
フォーマルディナー
今学期はSt. Johns Collegeと私のKellogg Collegeの2つに参加しました。特に、ロンドンから友人が来た際にフォーマルにも招待し、ものすごく喜んでもらえたので、オックスフォード外の人を呼ぶのが意義が大きいなあと思いました。
2学期目は、しっかり勉強するとともに、イベントを開いたり、仕切ったり、ブログを書いたり、少しずつこの大学院にも貢献できている実感が伴ってきました。加えて、ここでの授業は「学生と教員が一緒につくるもの」といいますか、学生は自分の意見や質問を発言して当たり前で、その一人一人の思考プロセスや知識を共有していくことで授業になる、というか授業をしている意味がある、という前提がより理解できるようになってきました。特にブラバトニクでは多くの人が発言して当たり前で「発言点」のような成績加算はありません。私も途中から、1授業1発言を目標に(できない日も多々ありましたが)授業に参加しました。この最大のメリットは、自分が120%授業に集中できるし、発言する可能性を持って参加していることで、授業内容がどんどん自分のものになっていくことです。引き続き、悔いのないように取り組んでいきます。
最後になりますが、4月頭に、パートナーの優莉さんが活動しているFamily Choirのコンサートがありました。主にママたちが子連れで毎週練習し、本番のコンサートも子どもと一緒に歌うハイパーな習い事です。一番気合の入っていた曲のところで長女が我慢ならず優莉さんを引っ張り、抱っこも疲れてしゃがまざるを得ず、アウトロでは長女が叫ぶ、という流れでしたが、この自由でおしゃれでニーズに適っているコンセプトの合唱団は素晴らしいなと思いますし、これに飛び込んでいるパートナーが本当にすごいと思っています。1日1日噛み締めながら、家族で刺激し合っていければと思います。では!!