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3学期(Trinity Term)を終えて -オックスフォード大学ブラバトニク公共政策大学院-

3学期目は、英国の春の息吹に感動しながら始まりました。殺風景だと思っていた道端の至る所で「ここ花が植ってたんだ」という驚きに囲まれ、英国の印象が180度変わりました。授業も暮らしもとても充実し、駆け抜けた3ヶ月でした。

週末はお気に入りのカレッジ(これはBailliol)に潜入して家族でピクニック

冬は極寒の草原だった近所の公園も春は桃源郷

春休みは、両親の来訪から始まりました。彼らは15年ぶりの海外で、この機会を作ることができたことがとても嬉しかったのと同時に、2週間うちの寮に滞在してもらい、これも15年ぶりぐらいに両親と1日中行動を共にする経験をして、とにかく家から出たくなる高校・大学時代を思い返すのでありました。しかし、とても美しい時期に来てもらい、バースやコッツウォルツやらとでかけ、皆んなでここがとても良いところだと共感できたのが良かったです。

4月からは、下の子が1歳になり、月と金の2日だけなら保育園に入れるとのことで、ついに入園しました。泣いていましたが、男の子ということもあってか、家の外でのアドベンチャーをとことん楽しんでるようで何よりです。3歳の娘が保育園で、気分次第で、面倒を見たり、放置したりしているようでそれもまた面白いです。

保育園の庭で弟に絵本を読み聞かせている?姉

3学期目は、選択授業が2つと、学期の後半から始まる「Policy Challenge 2」というプレゼンテーションとシミュレーションで構成された1年の総括的なコンテンツ(Policy Challenge 1は初学期に行われた交渉の授業)で変則的なスケジュールでした。選択授業について、特定の地域や分野に焦点を当てて専門性を深めるもの(公共経営, 中国経済, DXなど)にするか、今ここでしか勉強できなさそうなものにするか迷った結果、後者の観点で選びました。結果として、授業名からはほとんど内容が推察できない下記の2つの授業を選びました。

How to Lead in a Polarised World
(分断された世界におけるリーダーシップのあり方)
People, State, and Planet: An Integrated Approach to World Politics
(人々・国家・地球:世界政治への統合的アプローチ)

How to Lead in a Polarised World

この授業は、Karthik RamannaというMITでMBAをとり、今はオックスフォードとハーバードの両方で教えている先生の授業でした。Karthikは元々8年間にわたって、私が学ぶオックスフォードのMaster of Public Policy(MPP)のプログラムの責任者をしていました。多様性の非常に高いプログラム(私の時で156人61カ国から学生が集まる)であるがゆえに、大学側と学生の間や学生間で、トラブルが何もないわけではもちろんなかったところ、ある日、Karthikが学生から「あなたはシステムの一部だ」と批判されたことがあり、「有色人種(brown)で、ゲイで、移民として英国(2カ国目)に住む私が、なぜ『システムの一部』と批判されるのか、と強い衝撃を受けたことをきっかけに、分断社会における組織やコミュニケーションのあり方をまとめて『The Age of Outrage: How to Lead in a Polarized World』という本を出版したそうです。この授業はその本がベースになっていました。

15名程度の履修人数で、大量の文献とケーススタディをもとに、パワーポイントを映すことはほぼなく、ディスカッションのみで構成された授業でした。何が分断をドライブするのか、どう冷静になり、状況を把握できるのか、組織や個人はどこまでを対応する範囲として特定するのか、自分にどんなパワーがあり、どうレジリエンスを発揮するのか、といった論点で構成されていました。各授業には関連する有識者も呼ばれていたのですが、ほぼ全授業に参加して後半に1コマ講義もしてくれていた男性が、誰だろうと思っていたらコロンビアの元大統領のイヴァン・ドゥケさんだったことが、最も印象に残っています。ローマ教皇庁の財務管理をするバチカン銀行の改革プロセスについてディスカッションをファシっていたのですが、ものすごいテンポ良くバンバン学生に発言を促しながらディスカッションベースの講義を回せる元大統領、というのが非常に新鮮でした。

People, State, and Planet: An Integrated Approach to World Politics

People, State, and Planetという標語が印象的ですが、これは国際関係論の古典であるケネスウォルツの「Man, the State, and War」(人間・国家・戦争)という本とその主張に対して提示する新しい概念のようでした。戦後間もない当時は国際関係論の焦点は、国家を中心に、国家間の競争と協力を分析するというものに当たっていましたが、冷戦がとうに終わり多極構造化し、GAFAの代表のような非国家主体が特異な影響力を持ち、気候変動やサイバーセキュリティのような国境を越える共通課題が生じ、さらに人間活動によって地球のシステムが変化して、この惑星そのものが人間にとって住みにくい場所になりつつあるというような、地球全体の問題が発生している状況下で、今日の国際関係論や、非国家主体も含めた多様なアクターと合わせて世界政治をどう捉えるのか、新しい視点、ツール、アプローチが必要だと先生たちが考えた概念が「People, State, and Planet」だそうです。
偶然にも地球規模の課題として「高齢化」を興味のあるトピックとしてあげる学生が(私も入れて)複数いて、高齢化チームでヨーロッパが国際的な枠組みでどう弊害に対処できるか考えました。この授業の内容もですが、教授が、アメリカから2人の研究メンバーを連れてきて、そのうちの一人が、過去にオバマ政権で政策企画本部長を務め、プリンストン大学の公共政策大学院の学長だったアン・マリー・スローターさんでした。この方は、オバマ政権の仕事を辞める時に、育児に取り組む女性について投稿したWhy Women Still Can’t Have It All(「なぜ女性はいまも “すべてを手に入れる” ことができないのか」)という記事がかなり話題になった方らしく、確かに今やっと日本でも議論されているような核心的なポイントが、10年以上前にこれだけ盛り込まれていたというのは興味深いものがありました。

アン・マリー・スローターさん

Policy Challenge 2

そして必修のPolicy Challenge 2です。これは今学期、そしてこの1年の山場でした。まず学生は3つのトピックから興味のあるものを選びます。Major Global Cyber Security Crisis, International Climate Negotiations—COP30, North Korea Crisis Simulation最後の北朝鮮危機は、1年を通じてそう多くない東アジアに焦点が当たるタイミングなので、日本人学生は比較的選びがちで、私も例に漏れず北朝鮮危機にしました。

プレゼンとシミュレーションの2回の評価で成績が決まりますが、このシミュレーションが猛烈に細かくデザイン・準備されていて面白かったです。学期を通じて、北朝鮮周辺の歴史・安全保障・軍事力・経済危機管理などの講義を受け、トピックごとにグループ発表、そして専門家ブリーフィング(北朝鮮・中国・ロシア関係など)、危機管理原則を学んだ上で、丸2日間かけて行うシミュレーションのグループに分かれます。日本、韓国、アメリカ、ロシア、中国、そして北朝鮮の国ごとに分かれ、一人一人担当の大臣職が割り当てられ、自国と自分の役割に応じた利害関係を理解します。2日間のシミュレーションでは、数時間おきに提示される世界全体へのアップデートと、自国のみに知らされるアップデート、1日2回提出するアクションに対する結果(教員チームがウォーゲームという軍関係のシミュレーションにも使われる、一応セオリーに基づいて結果を判断するらしい)などから、常にスピード感と緊張感を持って判断が求められる2日間でした。この各国のアクションや教員チームのリアクションがいちいち凝ってて、記者会見を行うとするならスタジオに大統領役の学生が向かい、各国のミーティングルームに起これているディスプレイに実際に生中継されたり、各回のアップデートはBBC風のNEWS映像になっていたり、極めて非日常の時間を過ごしました。私自身は、北朝鮮のトップの役割を与えられてしまい、災難ばかりでとても面白くなる立場だったはずなのですが、有事を想定したメンバーの議論のスピードやアイディア出しの数に全くついていけず、全然貢献できずに終わりました。最後にここまで悔しい経験をするのか、と落ち込みましたが、また自分の伸び代に気付いたということにしました。

北朝鮮チームのメンバー。あくまで役になりきって厳粛な雰囲気で。

Ready to run

以上がメインのモジュールでしたが、学期中に単発でいくつか選んで履修するApplied Policy Moduleの最後の1個で、Ready to run(選挙に出るための準備)という授業が、1日かけて行われました。これはCalum Millerという大学院の教員が2024の英国庶民院議会総選挙で当選して、その際に学生からその過程についてよく聞かれたことから授業化されたものでした。授業自体はかなり密で、30分講義・30分グループワークの1時間を途中昼ごはんを挟みながら7回ぐらい繰り返した後に、提出した資料をもとに教員チームがグループへ投票して結果発表という感じでした。講義は、選挙に出る前の心構えや準備から、選挙の戦略、ファンディング、メッセージの作り方など、実際に英国でプランナーをしている人や卒業生やMPP生で出馬経験者などが積極的に登壇して行われました。印象的だったのは、最初にCalumが、参加している学生70-80人ぐらい?に選挙に出る予定が聞くと10名ほどのみ手が上がり、現時点で予定はないが将来可能性がある人を聞くと、3−4割か半分ぐらい手を挙げていたことでした。そして、基本的に英国の選挙活動のあり方が日本とあまりに違っていて興味深いです。街宣車はなく、戸別訪問が主な活動であり、特に選挙日当日には「今日が選挙ですよ!」と改めて各戸を訪問し、バスを出して有権者を投票所に連れていくことで投票数を確保していくなど、日本でできないことがむしろ一番の盛り上がりどころとして紹介されていました。この公共政策大学院にはPolitical leadership scholarshipという、卒業後5年以内に何かしらの選挙に出馬することを条件に支給される奨学金があり、それを活用してきているメンバーが本腰を入れて授業に取り組んでいたのも刺激的でした。

その他、最終学期ということもあり、駆け抜けるように学外の活動やイベントも多数ありました。入省前からなぜか縁が途切れない同期と大学院のPodcastに出て、日本の官僚の生態を少し紹介したり、DeanのNgaireと1on1で話し、過去に2人だけいた総務省の地方自治系の先輩の名前を非常に鮮明に覚えていることに驚いたり、また、ベネズエラ系アメリカ人の同級生(スウェーデン系・イタリア系でもある)が信仰と公共政策について率直に話す朝食会を企画してくれて、多文化共生的な文脈であったものの、日本の神道や天皇のことなども共有できました。

Podcast収録@大学院のスタジオ

あと、Heywood fellowという毎年英国政府のシニアの職員が出向で大学院に来ている仕組みで、今年の人は、国家と国家戦略の関係を研究(なぜ両者は相性が悪いのか、を起点に有効な手法をまとめたプレイブックを作る)していたのですが、その勉強会に今学期も参加しました。このメンバーが共有してくれた事例が面白くて、英国のポートタルボットという1950年代に栄えた鉄鋼業の都市で、なぜ国家政策の中核であった都市がその後取り残されることになるのかを検討して、国家戦略を、抽象的なGDPや産業別ではなく、具体的な場所で何が起きるかで設計する(国家の強みが国内のどこで増幅され、グローバル政策の痛みが国内のどこに集中するのか)ことを提案していました。国と地方の関係を考える私にとってはかなり示唆深いものでした。

5月には稲盛財団が主催するかなり重たい学術賞の京都賞授賞式がオックスフォードで行われてディナーに参加したのですが、受賞された地球全面凍結を実証したポールホフマンさんに「小さい頃NHKスペシャルでみました!」と伝えたら「僕が小さい頃はラジオしかなかったからいいよね」とお返事いただきました。

ポール・ホフマンさん

学生間の交流は、ラストスパートで拍車がかかり、校舎でのカルチュラルナイトが毎週のように行われて、娘を肩車しながらスロヴァアキアのダンスをしたり、次いつ会えるのかわからないのでと、インド、アルゼンチン、エジプト、アメリカ、オーストラリア、コンゴ民、セネガルからの学生とコーヒーチャットしたり、ウガンダとナイジェリアのアフリカ女子3名と我が家でディナーしたり、ウズベキスタン人家族とは一緒に1日出かけたり家でご飯食べたりバブルティー飲みに行ったりと多くを共にしました。アメリカの陸軍士官学校を出て将校になる前に軍費で留学に来ている2人が日本食を食べにうちに来て、庭で披露してくれた腕立て伏せのフォームがとても美しかったのを覚えています。そもそも授業や課題でかなり忙しいのに、MPP生がオックスフォードユニオン(英国最古の弁論部でしょっちゅう政治家や俳優など著名人が講演にくる)の建物を貸し切ってMPPのディベート大会を(予選と本選に分けて)実施すると言って実現したのは、授業やプレゼンの合間にディベートの原稿を考えた学生含め、素晴らしいエネルギーだなと思いました。

カルチュラルナイトには毎回家族で参加して世界の料理を満喫

左:ウガンダのYouth枠で国政選挙出馬中 中央:ナイジェリアの弁護士 右:ウガンダの環境活動家(Climate Justice Activist)

USメンバーに腕立て伏せをさせる娘

ディベート大会

初学期に選挙で選ばれたStudent Representativeのメンバーは、任期の終了に向けて色々と調整ごとで心労が多かったのを察してくれた大学運営側の計らいで、ダーツバーで打ち上げをして盛り上がりました。

年度末の盛大なパーティ(Ball)では、歌姫である妻が、MPPの日本人の仲間のピアノに合わせてアリエルのPart of your world を歌い、喝采を受けました。アカペラはできませんでしたが、妻のステージを確保できて各位に非常に感謝です。

今学期は、St. Edmund hallというカレッジのフォーマルディナーに呼んでいただいて、とても美味しかったのですが、終わった後に歴史あるカレッジを案内してもらっていたら「図書館の下がカタコンベなんですよね」っていう事実にも驚きましたが、行くと偶然コーラス隊が歌っていて、聞く側もロウソクを持って参加できました。

St. Edmundの庭。約40あるカレッジのうちの1つ。

図書館の地下のカタコンベ

自分のカレッジにはロンドンに長くお住まいの学外の方をお呼びして、これも大変に喜んでいただけて嬉しかったです。暖かくなってくると、私のKelloggカレッジがガーデンパーティを開催してくれて、家族みんなで、最後の最後までソーシャルな時間を満喫しました。

ガーデンパーティ

春だからというだけでここまでパーティをしてくれるカレッジ群には驚き。

休日に娘の保育園の友達家族の家に行ったり、家に呼んだり、公園で遊んだりしたことや、妻の両親が来たタイミングで妻とふたりで出掛けてミニゴルフをしてパブをピザを食べたりできたのもとても良い時間でした!夕方5時ごろに保育園にお迎えに行き、8時ごろには子どもたちが寝て、その頃にはすっかり大人も閉店モードになっている我が家では夜9時とかにお出かけしているのは極めて新鮮です。そのほか、ベルリン、パリ、クロアチアにも訪れることができて、ヨーロッパの真髄を垣間見、そして英国の良さもまた実感できました。

この春に一番良かったなあと思ったのは、大学のクラブで借りている市民菜園(アロットメント、貸し畑?が偶然家の隣にある)に参加して、野菜を育てたり他のメンバーとシェアしたことです。自然と触れ合えるのも良かったですが純粋にかなり美味しかったです。英国の飯がうまくないという評判は主に外食産業に対するメッセージだと思っていますが、ちゃんと家にお呼ばれして食べるとものすごく美味しいですし、スーパーで売っている野菜や果物もかなり美味しいと思っていたところ、自分で育てた野菜や自分でとる果物は格別でした。そこで英国の飯うまいんだ、と口で伝えようとしても伝わらない悔しさが常に残りますが、これは自分たちがわかってればいいということですかね笑。前に山口県に出向していた時も、自分が紡いだ縁や経験から感じる魅力こそ、愛着であるし、「帰りたくない、」と思わせるものですが、今回の英国滞在は家族4人それぞれかけがえのない過程をシェアし合って、それぞれがお互いの紡ぐきっかけから好きなものをつくり合って、言葉にできない感動が複雑に絡み合っている感じがします。だからこそ帰りたくない、というか帰らなければ、その複雑なものをそのまま維持できますが、帰るからこそその大切さに気づけるし、感謝を伝えられるので、いつか帰るからこそ認識できる関係性の大切さのように思います。

これにて、公共政策修士(Master of Public Policy)の授業は全て終了、学年末のパーティ(Ball)の前後から学生は世界中に散り散りになり、最後の必須課程である公共セクターでのインターンシップに向かいます。私は英国の市役所で働いたのですが、かなり学びの多かったその経験とMPPの総括については次の記事で書きたいと思います!

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冨永 真之介

東京都赤坂出身。在学中に1年間休学し、人口約100人の口永良部島で暮らし「自治」の2文字に取り憑かれ、公務員試験を受け続けるも落ち続ける。その間は築地の魚を売る。合格後、アフリカ人の人との向き合い方とテンションに惹かれ、4ヶ月間コンゴ民主共和国で過ごす。帰国後、総務省入省。

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