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英国の市役所で3ヶ月間働いてみました -オックスフォード大学ブラバトニク公共政策大学院 MPP-

シェフィールド市庁舎

オックスフォード市からクロスカントリー鉄道に揺られ、約3時間。降り立つと、整然とした駅前の広場に始まり、「これぞ英国」と思わせる歴史的な建造物もあれば、すぐ近くには現代的なガラス張りでできた数十階建物が展示されている温室やホテルなど現代的な建築が続き、新鮮な景色に映る。イングランド第4の都市、シェフィールド市。私が大学院の学位取得の要件の一つとなるインターンシップを行う場所である。

インターンシップに至る経緯

私が修士課程に所属しているオックスフォード大学の公共政策大学院(Blavatnik School of Government)では、156人、61の国と地域から来た学生が学んでおり、週4、5日の授業と、大量の文献、課題を2024年の9月からの9か月間、「これじゃあ、フルタイムジョブと変わらないね」と言い合いながら、乗り越えてきた。「大学の中に街がある」ともいわれる広大なオックスフォードの環境で、世界中の公務員やエコノミスト、活動家、ジャーナリスト、医者や弁護士と学ぶ時間は、まさに非日常、そして濃厚な時間であったが、6月に最後の授業が終わると、学生たちは慌ただしく荷物をまとめ、インターンとして働くため世界中に散らばっていった。

公共セクターで最低6週間のインターンを行い、その業務に関連するトピックのレポートを提出するのが最終課題である。多くの同級生たちは、英国のグローバル水準の大学で学ぶからこそ、世界銀行やOECDのような国際機関や、欧米のNGO、あるいは他国の政府機関で機会を見つけている。

一方で、これまで総務省や山口県で、一貫して地方行政に関わってきた私は、きっと今しかできない経験として、「英国の自治体で働いてみたい!」という思いを鮮明にし、数か月かけて多くの方に協力をいただきながら、英国の地方政府にインターンの受入先を探してきた。

その過程では、かつて住民投票をきっかけに発足したスコットランド政府で働いてみたら面白いのではないかとか、多くの自治体が会員として所属する自治体協会などから俯瞰的に勉強できるのではないか、などいろいろ検討や働きかけを行った。その最中、「シェフィールド市の国際連携の担当者が、興味を持ってくれている」という話をいただき、早速打合せをセット。担当者の名前はニック。市役所の投資チームのリーダー(課長相当)だが、投資呼び込みや相談受付の業務は全て他のメンバーに任せて、ほぼ自分一人で国際連携(姉妹都市・友好都市)の業務を担っている。政策の内容や課題をとてもわかりやすく話してくれた。問題意識を聞くと、35年前に締結した川崎市との友好都市提携を、より双方に利益のあるものにしていきたいとのことであった。

シェフィールド市と川崎市の友好都市提携

リーズに次ぐイングランド第4の都市(人口は約55万人。なお、英国全体の人口は約6,900万人)といわれ、産業革命前後から鉄鋼業などの重工業で英国経済を支えてきた産業都市である。第二次世界大戦後、鉄鋼業の衰退と経済の低迷を経験したものの(まさに、映画『フル・モンティ』で描かれた情勢である)、近年は、市内にある世界大学ランキング100位以内に入る名門のシェフィールド大学や、シェフィールドハラム大学が主導する先端的なものづくりや企業との協力、そして合計6万人近くの学生が居住する学園都市である特徴を活かした、イノベーションを中心に据えたまちづくりを進めている。

特に、シェフィールド大学の先端製造研究センター(Advanced Manufacturing Research Centre)は、ロールスロイス社やボーイング社が参加し、産官学連携の成功事例として認知され、シンボルとなっている。

こうした特徴を持つシェフィールド市と共通点の多い日本の自治体があるとすれば、それは神奈川県にある政令指定都市、川崎市である。川崎市は京浜工業地帯の中核をなす工業港として戦前から工場立地地域として栄えていた。しかし、戦後の高度経済成長期の公害問題や工場過密問題によって、産業構造の変化を余儀なくされ、ものづくりから研究開発の都市へと変化していった。

現在は、慶應義塾大学の新川崎K2タウンキャンパスに隣接する「新川崎・創造のもり」において、最先端技術の研究開発に取り組む企業等の集積やベンチャー企業の新規創出の支援などに取り組んでいる。多摩川スカイブリッジの完成によって、羽田空港から徒歩10分となったエリアに位置する「殿町国際戦略拠点 キングスカイフロント」では、ライフサイエンスや環境分野で世界水準の研究開発に取り組む機関が多数進出しており、市として新産業の創出に取り組んでいる。

こうした似通った歴史的経緯をきっかけに、1990年に両市は友好都市としての交流を続けている。シェフィールド市は、より一層の経済発展に向けて、国際戦略を新たにしているところであり、それに合わせて、川崎市との友好都市を活かした新たな取組を検討したいというニーズがあったところ、「英国の自治体で働いてみたい」という私の存在が目に留まった、という次第である。

ニックとの最初の打合せで、インターンの実施は即決となり、無事に大学側の手続も終えて、6月末より業務開始となった。

いざ、市庁舎へ

ここまでの流れから、私がインターン期間中はシェフィールド市内に居住すると思われる方が多いのではないかと思うが、実は私の勤務は「週1日出勤、あとはリモートワーク」であった。これは何ら特別な対応ではなく、チーム全員が、毎週水曜日のみ出勤しているのである。比較的ワークライフバランスが安定している環境であることに加え、リモートワークがしやすいから公務員をしている人もいる、といわれるほどである。

チームリーダーのニック(英語では敬称をつける文化がないというか、そもそも呼び捨てに敬称が含まれている感じ?)によると、もともと毎日、シェフィールド市役所のオフィスに集まって仕事をしていたが、残念ながら水曜日しかオフィスに行かないんだ。だから君も水曜日にだけ来てくれればいいよ」といわれ、その条件は家族とオックスフォード市に暮らす私としても非常にありがたいものであった。ここまでのコミュニケーションですでに、かなり合理性を優先している職場風土を感じ取る。そもそもニックとの打ち合わせも、話そうとなればすぐにニックからスケジュールがおさえられるとともに、Teamsのリンクが送られてくる(当たり前だが)。ニックは自宅か、職場の自席で話している。以前の日本の職場では、オンラインで話そうとなったら、そのために会議室を用意し、課長や課長補佐が自らリンクを発行しないことも多い(部下がやることだという認識)ので、非常にスムーズだ(当たり前だが)。

街案内がめっちゃ面白いのはどの国の自治体職員も同じのようだ

こうして、シェフィールド市役所への初出勤日を迎えた。ニックにエントランスまで迎えにきてもらい、初対面。5階のオフィスへ。5階は、私が所属する投資や国際連携を担う「Invest Sheffield」チームが属する部局である「City Futures」(「都市の未来局」、とでも訳せるであろうか)があり、この部局は、経済成長や都市計画、気候変動に関連する施策を担う。市役所の組織は、

  • 図書館や公園、コミュニティなど日常的な地域サービスを担う「Neighborhood services」
  • 高齢者などのケアサービスを担う「Adult’s Care and Wellbeing」
  • 子どもや子育て世帯へのサービスを担う「Children’s Services」
  • 公衆衛生などを統括する「Public Health and Integrated Commissioning」
  • 人事や財務などの内部運営を担う「Chief Operating Officer」の部門
  • そして私がいた「City Futures」

に分けられる。建物全体が市役所のオフィスであるが、5階は整然としつつも、やや生活感のあるデスクや棚の様子は、私がこれまで勤務した役所の雰囲気と近いものがあり、親近感が湧いた。各フロアには給湯室があり、イベントや、働き方、ハラスメントに関する掲示が雑多にされているのも私の日本での元職場に似ている。多くの職員は、持参したカップで紅茶を飲んでいるのはとても英国らしい。職場に用意されたティーバッグを使う人もいれば、こだわりの茶葉を持ってきている人もいる。チームの一人が、私にも紅茶を淹れてくれるとのことで、ミルクと砂糖を入れるか聞かれ、入れなくて良いと伝えると、ミルクティーが基本の英国人からは「Are you sure?」と言われるのであった。

私が知っている職場環境との大きな違いといえば、各職員・チームの座席が、フリーアドレスとまでは言わないが、流動的であることである。チームによって出勤の曜日とリモートワークの曜日が大方定まっていて、それに対応して、チームごとの座席エリアが割り振られていた。私が所属する「Invest Sheffield」は水曜日が出勤日で、6人のメンバーで1区画を使用しているが、他の曜日は別のチームが同じ場所を使っている。したがって、机上に個人の私物はなく、ノートPCに接続する大きなディスプレイと、オンライン会議の際に使用するヘッドセットだけが置いてある。オンラインの会議や通話が1日に何度も行われているが、職員は自席からヘッドセットをつけて参加している。リモートワークは、Covid-19のパンデミック以前から当然に導入されていたようであるが、パンデミックによってさらにリモートワーク率は高まったようだ。

全く異なる「人事」のあり方

ここは英国であり、もちろん日本の雇用文化とは全く異なる前提が、市役所にもある。まず、毎年新卒の職員を一括採用するようなスキームは存在しない。各部局、各チームが個別に必要に応じて人材の公募を行う。もし職員が転職したならそのポストを募集するし、政策の重点が変わり、新たに人員が必要になれば、それもまた募集する。

市役所のホームページ(Sheffield City Council Job Vacancies)などを検索すると出てくるが、現在募集がかかっている役職、給与、労働時間、業務内容や市の課題、求めている特性、応募締切、面接の日程などが詳細に記載されており、ウェブ上から応募できる。

応募者は、経験やスキルが、書類や面接、プレゼンテーションから判断され、採用可否が決まるらしい。一度無期の正規雇用が決まれば、基本的にはずっとそのポストで働く。したがって「人事異動」もないのである。一括採用もなければ「人事異動」もないでは「昇進」はどうなのか。これも、昇進を望む職員が自ら空いたポストに応募することで行われる。ただそれが公募されているポストであれば、外部からの応募者との競争にも発展しうるのだ。

そうして採用された職員には、民間企業から転職してきた者もいれば、他の自治体(一つに限らず、二つや三つ)を経験してきた者もいるし、大学を卒業してすぐに就職してきた者もいる。部長級、局長級の職員が、以前は他の複数の自治体で課長級を経験してきた、ということもある。もちろん、バックグラウンドの傾向は、それぞれの業務のテーマや内容によって異なってくる。

Invest Sheffield チームの人材構成

例えば、私が所属していたチームのメンバーがどんな経歴であったかを紹介したい。「Invest Sheffield」チームは、企業誘致や投資の呼び込みに関する業務が主であったことから、民間(特に金融機関)の経験がある職員が目立っていたように感じる。

まずチームリーダーのニックだ。彼は大学では法律を学んだが、卒業後に地元の銀行に就職。数年後には転職し、地域の企業支援を行う団体や大学のビジネスプログラムの企画・資金調達から実施までを統括する役職、民間コンサルで公共セクターの支援、別の自治体で経済振興(Economic Regeneration)部門の課長などの職を転々としてきた。地元は少し離れた地域だが、今、シェフィールド市で働いているのは、パートナーの転勤に伴って移住したためで、私がインターンをしていた時点で10年になる。

チームの中には、銀行で29年間勤務した後、シェフィールド市に転職して、市内の大企業を対象に公的な支援制度の窓口を担当して8年になる者や、学生時代からプログラミングを学び、システム開発会社を経て別の自治体でICT関係の技術系の仕事をしていたが、関心が変わり、シェフィールド市の企業誘致の業務に応募したという者もいる。

勤務形態も様々で、同じチームでも、市内の企業の人的資源の確保の支援を担当している女性職員は、民間の人事部門で16年間勤務した後、出産を経て転職した。現在は育児とのバランスから週3日の勤務としている。2人の育児をする週4日勤務の職員は、フルタイムで勤務後に夫の転勤で柔軟勤務制度に変更。生産性の高い職員を確保するための取組によって実現したという。業務内容は職員ごとに異なり、それぞれがそれぞれの労働時間に対応して仕事を進めていることから、勤務日数や形態にかかわらず、職員間の関係性はとてもフラットに感じられる。

もう一人、大学を卒業したばかりのメンバー・ロブが期間限定でチームに属していたが、その経歴は少し興味深い。彼はシェフィールド大学の学士・修士を取得した後、National Graduate Development Programme(NGDP)に応募し、高い競争率の中で採用された。これは全国自治体リーダー養成プログラムとも呼べるもので、イングランドの自治体の大半が入会する全国自治体協会(Local Government Association)が運営するトレーニングプログラムであり、全国から採用されたメンバーとともに研修を受けつつ、どこかの自治体に割り振られて、2年間で三つの部署での勤務を経験し、その後は自治体で活躍することが期待されている。

このプログラムによって本人は研修と勤務を通じて経験やスキルをアピールすることができ、会員自治体としても、優秀な人材の登用につなげることができる。彼の最後の部署が偶然にも「Invest Sheffield」チームであり、意見交換やイベントの準備など、業務をともにすることができた。

ニックとロブ

上司・部下の関係

私の業務はあくまでインターンとしてであるし、この3ヶ月間で、職場のコミュニケーションの半分も掴めているとは思わないが、N=1に基づく限り、明らかに上司と部下のコミュニケーションは対等であるように思う。座る場所からして課長であるニックがどこに座るのか(本人は常に通路側を選んでいたが日本だったら一番下っ端が座るところ。おそらく単に移動しやすいから)からして、気にすることがない。また、外部との打ち合わせも、ニックは「シンノスケがひとりで行けるなら全然ひとりで行っていいよ」と言ってくれる。そして基本的にニックの対応スピードはかなり早い。そして関係しそうな情報をシェアすると「Googleアラートで見てたよ!」と情報感度も高い。私の個人的な経験からだが、上司から褒められると嬉しいものの、褒められ続けるとあまり意味がないというか、実際に自分の仕事がどのレベルだったのかが判断しづらいところ、ニックはその感覚が非常に絶妙だった。まず私が当然すべきことをメールで対応するとOutlookでスタンプが返ってくるが、その作業量がやや大きめになると「Thanks」と送られてくる。次に、私が担当している案件で、何かしらの成果物を納品すると「Some good work.」が返ってきて、コメントが色々ついている。ここでいうsomeは部分的に、というよりもveryとかいうと重すぎる時にちょうどいいトーンの調整として置かれているのだと思うが、私としてはいかにこのSome good workを超える表現を返させるかに燃えていた。内容が結構いいのができた時は、Thanks Shinnosuke – some very useful ~~というのもあって、これはなかなか良かった。序盤では、何事も初動が大事になので、インターンの終盤に期待されていたような大きな提案を、そんなに時間をかけて仕方ないし、できれば在任中に話を前に進めたくて初週に納品し、翌週すぐにミーティングで説明したところ、その反応、非常に改まったニックが「Very impressive」と言ってくれた。この表現はインターンを通じて出会ったニックの最上級であった。

市役所がデベロッパーを担う

初めてシェフィールド市を訪れた日の午後に、ニックが再開発が進む中心市街地を徒歩で案内してくれた。まず市役所から見えるビル群。「ここから見える建物のほとんどは、市役所が買い取ってリブランディングしている」とのことだった。中心部は、かつて車道であった場所が広場のような大きな歩道となって、飲食店やスーパーなどを結び、「歩いて暮らせる街」を目指している。

この5階から見える景色のほとんどの不動産を市が所有

街中にはCovid-19パンデミックメモリアルも。

途中の植栽は豊かで、持続可能な都市型の排水設備を目指し、雨水の貯留や浸透などを考慮した傾斜や素材が使用されている(Sustainable Urban Drainage Systems)。

歩を進めると、新旧問わず多くの建物に、とても魅力的な飲食店や地域性を意識したアートや本の店などが入居している。昨年オープンしたフードホール(日本でいうフードコート)は、モダンな内装である一方で、英国らしいパブのようなカウンターを中心に、約20店舗の多国籍な飲食店が入った活気ある魅力的な空間となっており、あるメディアの「訪れるべきヨーロッパのフードホール」10のうちの一つにも選ばれた。

市がローカルな店を選定して入居してもらっている。

フードホールのキッズスペースには砂場。常時Blueyが流れている。

フードホールに限らず、市が再開発したエリアの事業者は、市内の事業者や市内で購入したものを扱う事業者が優先的に配置されている。平日でも夕方になると人があふれ、活気を感じ、気づけば私も一杯やっている。

垣間見る「制度」と「ダイナミズム」の違い

街を歩き、刺激的な市主導の再開発の姿を見ながら、「なぜこのような取組が可能なのだろう」と疑問が湧き、幅広く英国の制度について調べてみたところ、一つ気になる法律があった。それが、2011年の保守党政権によって施行された「地域主義法(Localism Act 2011)」である。

「地域主義」というのは、当時の政権が掲げた地方分権に向けた言葉であり、地域主義法は、イングランドの自治体と地域コミュニティにおいて、権限移譲や一部のルールの緩和など大きな変化をもたらした。中でも象徴的といえるのは、自治体に対し、「個人が行えることであれば、法令で禁止されていない限り行うことができる」という包括的な権限が明示されたことだ。これは「包括的権限(General Power of Competence)」と呼ばれる。

もちろん、これだけが要因ではないが、上述の再開発事業などは、日本であれば民間のデベロッパーが担う部分も多くあり、まさに「個人」ないし「民間」のような活動を自治体が取り組んでいる姿ともいえる。そして、再開発によって確保した施設の賃料や税収入が、財政的制約の大きい中でシェフィールド市の財政の支えの一部となっていることも興味深い。

気になるものがあった。それは、至るところで市役所のロゴマークと一緒に見かける「SYMCA」というロゴである。これについてチームリーダーに尋ねると、「シェフィールド市を中心とする南ヨークシャー市長合同行政機構(South Yorkshire Mayoral Combined Authority)のこと」だという。調べてみると、この合同行政機構、又は広域自治体ともいえる組織である「Combined Authority」が、街中でもその存在感を放つと同時に、現在の英国の自治体制度を語る上では欠かせない存在であることが分かった。

公共工事のフェンスには大体SYMCAの文字。

もともと、1974年の地方自治再編により、シェフィールド市には、その上位層の行政機関として「南ヨークシャー州議会(South Yorkshire County Council)」があり、日本の都道府県・市町村のような二層制で運用されていたが、1986年にサッチャー政権が大都市圏の州議会を全廃したため、市のみの一層制となった。これが地方分権の一環としての措置であった。その結果、州の一部業務は複数自治体で共同運営する機関に委託されたが、基本的には州の業務は市が担うことになった。

その後、国が地方分権を進める中で、合同行政機構(Combined Authority)の制度を整備し、2011年にマンチェスターに初めて設置され、シェフィールド市がある南ヨークシャーも後に続き、2014年に四つの自治体を中心とする合同行政機構を設立した。すると2016年の国の制度改正で、この合同行政機構にも直接選挙で選ばれる市長を置くことが可能となり、南ヨークシャーにおいても2018年から選挙で選ばれる市長(Mayor of South Yorkshire)が存在することになった。

現在は、国からの権限移譲や予算の配分を受けながら、広域交通、経済開発、都市再生などの政策を実施している。ちなみに、シェフィールド市単体に焦点を当ててみると、市には「名誉市民(Lord Mayor)」「リーダー(Leader of the council)」「事務総長(Chief Executive Officer)」という三つの役職がある。

名誉市民は議会内の投票で選出されるが、儀礼的なポストでイベントや式典の際に市の代表として出席するといった役目が基本である。リーダーも議会内で選出されるが、実質的な市長の役割を持っている。そして、事務総長(CEO)は、議会から任命を受けた事務トップで、リーダー等に助言を行いながら政策を実施するという関係にある。

つまり、市長(シェフィールド市においてはリーダー)は直接選挙で選ばれるわけではない。興味深いのは、2011年の地域主義法によって、特定の都市圏において、引き続き議会が実質的な首長となるリーダーを選任するのか、それとも市長の直接選挙制を導入するのかの住民投票が行われたことである。シェフィールド市では、議会によって選任するという選択がなされたという経緯がある。

一方でその後、上述のとおり、合同行政機構の首長については、直接選挙が行われることになったのである。こうした変化が、この半世紀の間に起きていると考えると、とてもダイナミックに感じられる。

もちろん、自治体間の連携は英国において決して容易ではなく、隣のマンチェスターは州議会が廃止された後も、自治体間での協働が積極的に行われ、それが今日の合同行政機構の円滑な運営の土台となっていることは、自治体関係者の間でもよく話題に上る。一方で、シェフィールド市及び南ヨークシャーの地域では、部分的な合同の取組があったが、現在も他の州議会の圏域の自治体が、南ヨークシャーの合同行政機構への参加を希望したりと、合意形成に時間がかかるような問題が少なからずあり、連携がスムーズではなかったとの声も聞いた。

インターンを延長

公共政策修士の要件としては6週間のインターンで十分であったが、最終週に関係各位と調整した提案を持って川崎市とシェフィールド市と両者で打ち合わせをし、具体的な調整に進もうとしていたところであった。せっかくなのでその先にも関わりたかったし、ロブが途中で去り、本件はニックが(他の多数ある姉妹都市の仕事と同時並行で)一人でやっているので、話を進めるのも難しいだろうと考え、インターンの延長を持ちかけた。ニックは、シンノスケのやってくれたことはとてもImpressive(2度目)で、もし延長してくれるならものすごく助かる、と言ってくれたので、とりあえず夏休みの終わりまで続けることにした(結局年末までやり、合計半年手伝っていた)。6週間で終わるのもかなり区切りは良かったが、延長を持ちかけたことで自分のモチベーションも相手に伝わったし、その分多くの学びと経験を得た。ニックは推薦状を作成してくれた。私は転職する予定は今のところないのであるが、この英語の推薦状が使える日がもしきたらそれはとてもエキサイティングだと思いながら、大切に保存している。

ニックとの最終日。ちなみにスペルはNik。チームにはJohnではなくJonもいて難しかった。

CEO・Kate Josephsへのインタビュー

また、シェフィールド市のCEO(事務総長)はKate Josephsという有名な英国政府の元高官で、英国では比較的珍しい国→地方へのキャリア転換をされていて、私としては非常に興味を持っていた。市役所内のネットワークが非常に強いニックにお願いし、オンラインでのインタビューの機会を作ってくれた。この会話ももちろんKateが自力でウェブ会議に入室してくれる。まずKateはインターンについて感謝を伝えてくれた。その上でイングランドの国地方関係についてざっくばらんに話を伺った。Kateは、英国が非常に中央集権的で、これは昔メディアの煽りで国政のリーダーに過剰な期待集まってしまい、中央政府が、不可能にもかかわらず全てを管理しようとしてしまうことを懸念していました。英国にはPost code lotteryという言葉があり「郵便番号ガチャ」ということだと思うが、住む場所次第で公共サービスが変わってしまうことを指す。今、中央政府はこの状況を打開しようと必死である一方、Kateとしてはそのアプローチに違和感があるよう。広域連携が重要で、単なる権限委譲ではなく信頼に基づく国と地方の新しい関係性を模索する必要があるとのこと。日本のように、国と地方で人材が行き来することは間違いなく効果があるとも言っていた。

おわりに

ここまで、シェフィールド市でのインターンを通じて見えた英国の地方自治関連の現在について、やや雑多な内容となってしまったが共有させていただいた。読者の皆様において、少しでも有益な情報があったり、日頃の業務を俯瞰的に捉える一助となれば大変幸いである。

今般のインターンシップについて、その準備過程から本稿の執筆に至るまで大変多くの方にお世話になった。シェフィールド市役所、川崎市役所、自治体国際化協会ロンドン事務所、在英日本大使館、オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院の皆様、そして私の家族に心から感謝を申し上げたい。

インターンシップでの具体的な業務については本稿で触れることはできなかったが、川崎市との友好都市提携を通じた取組の発展を皮切りに、英国と日本の自治体関係者が互いに学び合い、コラボレーションがさらに進んでいくことを願っている。


参考文献・ウェブサイト

◇ 川崎市ホームページ
(https://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/60-5-0-0-0-0.html)
[最終閲覧日:2025年9月19日]

◇ シェフィールド市ホームページ(Sheffield City Council)
(https://www.sheffield.gov.uk/your-city-council/sheffield-partner-cities)
[最終閲覧日:2025年9月19日]

◇ 自治体国際化協会「英国の地方自治(概要)」
令和5年度(2023年度)改訂版
(2024年3月)

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冨永 真之介

東京都赤坂出身。在学中に1年間休学し、人口約100人の口永良部島で暮らし「自治」の2文字に取り憑かれ、公務員試験を受け続けるも落ち続ける。その間は築地の魚を売る。合格後、アフリカ人の人との向き合い方とテンションに惹かれ、4ヶ月間コンゴ民主共和国で過ごす。帰国後、総務省入省。

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